映画『フィクサー』試写会に行ってきました。
★★★★☆
まずこの映画冒頭から難解です。
いきなり主人公マイケルの友人弁護士アーサーが早口で狂ったように、暗転字幕で誰かに語りかけるところから始まります。
その声に重なって、いきなりマイケルがポーカーゲームを高じているところに、裏の仕事向けの携帯電話が鳴り、交通事故のもみ消し工作の依頼を受けます。
これで見ている方は、ははぁ~なんか悪徳弁護士のもみ消しぶりが始まるものと期待します。
だが、そんな予想とは裏腹に、一仕事終えた彼の車は、途中気まぐれに車から降りて、丘の上に繋がれた馬をしげしげと見つめている内にドガーンと
大爆発。観客のもみ消しドラマという予想を粉々に破壊して、物語は、いきなり脈絡もなく4日前にパック。爆発に至る顛末が長々と綴られていきます。なんと
爆発シーンは、この作品のラスト15分のどんでん返しに向けた、クライマックスシーンの始まりの部分だったのです。
それを説明に抜きに冒頭に見せられて、観客は置き去りにされ、アレは何だったのだろうと内容を頭の中で整理するのでいっぱいになってしまいます。前半40分ぐらいは登場人物すら把握出来なくて、筋についていくのがやっとという状況になることでしょう。
ですから、この作品の鑑賞に当たっては、サイトでストーリーの予習をされておくことを強くお勧めしておきます。
アーサーがやっと殺害される後半になってやっとストーリーが見えてきて、果然面白くなってきます。
ラストシーンを見終わって、いい意味で予想を裏切られた満足感を味わえるでしょう。 そういう意味では、何も考えず笑えるオバカ映画が好きな人
にはお勧めできません。複雑なストーリーも読み解いて、筋について行けるサスペンス映画ファンには、見応えたっぷりの作品といえるでしょう。
なんと言っても監督が、ボーン・アイデンティティーシリーズの脚本を担当したトニー・ギルロイなのです。ボーンシリーズのテイストも観じさせられます。でも、チョット今回は脚本が懲りすぎですね。
この作品の魅力は、主演のジョージ・クルーニーの魅力に尽きます。全編アップで出まくり。しかもオーシャンズ11シリーズのようなお気軽な感じ
でなく、どこか苦悩と哀愁をため込んだ、苦虫を潰したような渋めのクルーニーは、これまで見られなかったクールなキャラです。そんなクルーニーの表情を追
うだけで、ファンにはたまらない1本でしょう。
あと女法務部長カレンを演じたティルダ・スウィントンが印象に残りました。
女ながら大企業の幹部ポストを射止め、取材を受けるときの達成感に満ちた表情が、保身に走らざるを得なくなったとき、突如見せる狂気を演じていて、なるほどこの役で助演女優賞を受賞しただけの演技をしているなぁと納得しましたね。
ところで「フィクサー」というタイトルの割には、マイケルのもみ消す仕事ぶりのところは余り振れられていません。むしろ、病める米国社会のなか
でうごめく企業論理とそれを守るためにある訴訟社会。そこに付随した法人御用達弁護士の使命感と人間本来の善意で揺れる苦悩を描いた作品といえます。
実際にマイケルのようなフィクサーたちは、お金のためなら何でももみ消します。けれどもその弁護活動の重い代償として、罪の意識から逃れられ
ず鬱やら漠然とした不安感さいなまれ、薬に手を出したり、博打で散財したり、何らかの自己処罰にはまっていくようです。マイケルの日常を通じてフィクサー
の抱える苦悩も良く描けていました。
●ここから少々ネタバレ
それは単にフィクサー個人だけでなく、いまアメリカという国が利益至上主義のもと、その綻びを必死にもみ消そうとしている姿を写しとっているとも考えられます。
国家全体がフィクサーとなっていて、マイケルのようにサプライムローンによる借金を抱えながら、自国の利益のためなら正義も理性もかなぐり捨てて、何でもしていいのかどうか問いかけているのではないかと思いました。
そういう点では、最後の15分のラストシーンは、アメリカ人にもどんなに金を積まれても捨てきらない、人間としての良心を観じさせてくれてましたね。
●あらすじ
NY最大の法律事務所の“フィクサー”=“もみ消し屋”であるマイケル・クレイトン。在職15年にも関わらず共同経営者へ昇進したこともなく、上
司は彼をかけがえない価値があると見なしていながらも、フィクサーの業務のみに特化した能力を持つ者としか評価をしておらず、人生の折り返し地点に来て、
マイケルは今後の人生を考え直そうとしている…。全米を騒然とさせた3000億円の大企業に対する訴訟問題。完全訴訟か和解の道を選ぶのが迫られたとき、
NY
No.1の実力を持つ同僚弁護士が、全てを揺るがす秘密を掴んでしまう。ボスから完全なもみ消しの特命を受けるマイケル。同僚の命が狙われ、さらに関わっ
たマイケルも命を狙われ…。
●作品について
名実ともに現在のハリウッドを代表するジョージ・クルーニーが、「ボーン・アイデンティティー」シリーズの脚本家トニー・ギルロイと組んでおくる
衝撃のサスペンス。映画では今まで描かれることのなかった、弁護士事務所に所属しながらも決して表に出てくることはなく裏で仲介に立って交渉をまとめる
“もみ消し屋”=“フィクサー”を描く。脚本にほれ込んだクルーニーは製作総指揮と主演を兼ねて、本作が監督デビューとなるトニー・ギルロイをバックアッ
プしている。良心の呵責から精神に崩壊をきたす同僚の弁護士を演じるのは名優トム・ウィルキンソン。『イン・ザ・ベッドルーム』で多くの賞にノミネート及
び受賞した実力で、難役を見事に演じきっている。(作品資料より)
[ 2008年4月12日公開 ]
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